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  • 執筆者の写真教育エジソン

中村由利子の音楽


 ニューエイジ・ミュージックを数多く聴いてきた中で、私が今いちばん気に入っているのは、中村由利子の曲である。

 自ら作曲し、ピアノで奏でる旋律は、ロマンチックで比類なく美しい。たいていは他の楽器とのアンサンブルであり、現在はヴァイオリンの都留教博、チェロの前田善彦と共に、Acoustic cafeというグループで活動することが多い。アルバムやコンサートでは、他にギターやオーボエ、さまざまな音色のパーカッションなどが曲を彩る。

 デビューして10年ほどの間に10枚余りのCDを出し、毎年コンサートを続けてきた。最近は、テレビ・ラジオの番組のテーマ曲やCMの音楽などを多く手がけている。

 中村由利子の音楽は、決して特殊なイメージ世界へのトリップを体験させてくれるわけではない。喫茶店のBGMとしてよく耳にするほどで、むしろ日常的な風景にとてもよくマッチする。いつも通る道で、思いがけず素敵な風景を見つけたり、部屋で気の置けない人とくつろぐ時間が、とても貴重に思えたり、何気なく流れていく毎日の中で忘れていた幸福にふと気づかせてくれるのが、彼女の音楽の魅力だと思う。

 アルバム新作活動では、途中、4年近くのブランクがあり、その前後で作風に多少の変化があると言われる。

『風の鏡』『時の花束』『絹の薔薇』など、詩的だがいくぶん気負いが感じられるタイトルの初期作では、どことなく寂しげな目をした少女が、自分の中の大切な思いや心の風景を、ピアノのキーを叩くことで紡ぎ出しているような雰囲気がある。

 それに対し、近作の『アトリエの休日』『夢の時へ』などでは、タイトルからして、肩の力が抜けている。聴いていると、周囲と調和して生きる喜びの中から曲ができ、それをまた、いろいろな楽器を持ち寄った仲間たちで楽しんで演奏しているという気分が伝わってくる。「この人は、いい仲間にめぐり会えたのだな」と感じさせてくれる。

 コンサートでは、観客が自由にカードに書いた風景なりワンフレーズなりから、そのイメージの曲を即興演奏する「イメージ・リクエスト」コーナーがユニークで、彼女の才能を堪能させてくれるひとときである。

 なお、Acoustic cafe仲間の都留教博も作曲家であり、『月をつくった男』『千の砂漠の夢』などのアルバムを出しているが、これらは、ロマンチックであると同時にシュールな雰囲気もある多彩な曲で、実にさまざまなイメージを喚起してくれる。

 また、中村、都留らがそれぞれに曲を書いたAcoustic Cafe のCDもあり、たとえば 『Acoustic Cafeの空中散歩Sky Dreamer』などは、空に舞い上がり、自在に翔けめぐるイメージに最高に合う。

1997年2月

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