キャンパス行状記⑤カットイメージ実験始まる
修士論文のテーマは、「カットイメージ読解法」。小説を読む際、内容を絵物語のように思い浮かべ、その心の絵(カットイメージ)を単位に読解を進めて行く。その方法の学習効果を心理学的に検討する。
12月に副指導教官の学部の授業を借りて、大学生60人ほどの実験を行なった。2種類用意した課題の冊子をランダムに配り、実験群、比較群とする。どちらの群も短い小説を2編読む。最初のテキストAは両群とも特別の指示がなく、読んだ後すぐ理解テストAに答える。2つ目のテキストBで、実験群は「心の中に何枚かの絵として思い浮かべるとどうなるかと考えながら読み直し、絵に対応して本文を分けなさい」、比較群は「本文を読み直して適切な数の段落に分けなさい」との作業の後、テストBに答える。つまり、実験群は、「カットイメージ」群、比較群は「段落分け」群である。
結果は、テストBで、カットイメージ群のほうが有意に得点が高かった。むろんテストAの得点に差はない。
併せて他の評価尺度によるデータも採っておいたが、そのいくつかでやはり有意差が出た。たとえば、事前に「国語授業の段落分け作業」、事後に「テキストBでやった作業」について、好きか、得意かなどの項目について五段階評価させたところ、カットイメージ作業の評価は、明らかに高くなっている。
また、 テキストBをいくつの段落(カットイメージ)に分けたかを群別に集計すると、両群はまったく逆で、カットイメージ群は多く分けようとし、段落分け群は少なく分けようとする傾向が見られた。つまり、「段落分け」ならおおざっぱに区切ればいいと考えるが、カットイメージの作業では、心の中のイメージを吟味するうち、意味のまとまりがみつかり、自然と多く分ける結果になるのであろう。そうした読みの姿勢の違いが、理解に差をもたらしていると思われる。
その結果に気をよくして、今度は勤務校の全日制にお願いして、高校1年生2クラスで同様の実験を行なった。しかし、大学生のような差は出なかった。
ショックだったが、あれこれ考えあわせてみると、テキストBの作業指示の出し方に違いがあった。大学生の冊子では、同じページのテキストのあとに作業課題が印刷されているため、テスト慣れしている多くの学生は、作業内容を先に読んでから本文にとりかかったと思われる。しかし高校では、冊子にせず、一ページずつ配る形にしたので、テキストを5分ほど読ませてから、課題のページを配布した。一度通読してしまうと、課題の指示があっても、きちんと読み返さずおざなりの作業で済ます生徒が出ることは避けられない。
教育催眠学会理事長TM先生の「実験をくり返すことで隠れているものが見えてくる」とのメッセージが、身に染みる体験であった。
1998年3月