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  • 執筆者の写真教育エジソン

あがりを克服する


 3年前、教育催眠学会で自律訓練法体験を発表することになった私は、多くの期待と多少の不安を抱えて、会場の九州大学を訪れた。

 私の不安は、「あがらずに発表できるか」ということである。なにしろ、私の発表テーマは、自律訓練法を応用した「私流イメージ瞑想法の実践」。自律訓練法は何よりもまず 「あがり」に利く。「自律訓練法をやっています」と発表している人間がその場であがっているのでは、話に説得力がなさすぎる。

 幸いなことに、発表前夜の懇親会で、何人かの先生方からあたたかいことばをかけていただいた。おかげでとても気が楽になった。

 当日は朝五時に起きて、ホテルの部屋で瞑想にはいり、発表の模様をイメージトレーニングした。発表会場を見ていなかったので、勝手に大ホールにし、聴衆も2000人規模にして堂々と発表した。

 実際は、150席くらいの階段教室に、参加者は3、40名だった。私は拍子抜けし、まったく楽な気分で始めることができた。途中、生徒たちと関係が悪化した新採時代のことに話が及んだあたりで、妙に呼吸が合わなくなり声がうわずって、腕が震えてきた。とっさに「その頃のことを思い出すと、今でも体が震えて来るんです」と言ってごまかしたら、何人かが気の毒そうに肯いてくれるのが見え、あとは楽にできた。

 学会発表の2週間後、大学時代の親友の結婚式があり、私は披露宴の司会を担当した。この時は、あらかじめ会場のホテルに下見に行き、部屋も見ることができた。宴会場を歩き回り、壁紙や調度品、シャンデリアの造り、カーテンの色、司会台から見える部屋の広がり、それらをよく見て、ときどき目を閉じてイメージを心に焼き付けた。

 その記憶を材料に、朝の瞑想の中などで、イメージトレーニングをくり返した。

 当日は、司会合に両手を置いて「ウデガオモイ」を唱えたら、両手がずしりと文鎮のようになったので、うまく行くと確信できた。

 しかし、新郎新婦の入場の後、「ただ今より、……ご披露宴を始めさせていただきます」と、開宴の辞を述べなければならないのに、いきなり「私は、」と自己紹介を始めそうになった。すぐ気づいて、「失礼しました」とことばを置き、開宴の辞を言い直した。冒頭からのミステイクだが、気にせずに先へ進んだら、以後はまったく順調にできた。

「エジソンがこんなに司会がうまいなんて知らなかった」と列席の友人が行ってくれたし、適度にアドリブがはいり、「楽しい司会でした」と親族の方にもおほめをいただいた。

 私は子どもの頃から、教室で立って教科書を読むのさえ、心臓が高鳴り、足が震えるような極端なあがり症だったし、近年までその名残りを引きずっていた。

 自律訓練法は、私の苦手と不安を一つ一つ、得意と自信に変えてくれる。

1996年8月

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