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  • 執筆者の写真教育エジソン

M高校で果たすべき仕事


 M高校は現在開校4年目だが、3年目には、開設準備から学校を立ち上げてきた校長が転任となり、新校長が赴任した。一言でいうとオープンな人柄で、校長室のドアを開け放って暖簾やのぼり旗で飾り、かわいい置物を並べて、寄っておいでと生徒を招く。始業式終業式の談話では、駄洒落を連発しながら、生徒を勇気づける話をする。

 教員に対しても、肩肘張らず意見を言い合える雰囲気を作ろうとする。コーピングなどの私の仕事も大いに買ってくれ、学校の売りとして積極的に宣伝してくれる。さまざまな新しい試みに、待ったをかけず、どんどんやれとあおる。教員一人ひとりが、自分の仕事を同僚や生徒や保護者に見えるようにしようという、「見える化」運動を始めた。

 教育方針では、今までの生徒保護中心の傾向から、部活や体育行事も奨励し、生徒の元気を引き出し、学校を活性化させる方向性を打ち出した。「M高校の第二ステージ」と称して、卒業後の進路を見据え、「自立した未来を育てます」という合言葉を掲げた。

 M高校は授業の取り方によって3年で修了できる定時制なので、1期生の約半数近くは、卒業を迎える。そのことを意識して、進路をどう保障するかを、課題にしたのである。

 そうした改革に、反発する同僚も少なくなかった。不登校や発達障害などを抱えた生徒たちと日々関わり、奮闘してきた先生方にしてみれば、積み上げた土台を突き崩される思いがしたのであろう。共に学校づくりを進めてきた私には、その気持ちも痛いほどわかる。それらの対立を越えて、よりよい学校像が描けないかという思いが強くなった。

 校長は、広くみんなの意見を聞きたいと、校内の課題と改善策を考える「知恵袋委員会」を設け、自由な参加を呼びかけた。しかし、多忙さ半分、不信感半分で、参加者は次第に減り、数人に固定がちになった。その場で、解決すべき校内の課題を自由に出し合ったが、私は、もっと多くの職員の声を集めるべきだと提案した。そこで、今までの課題を職員室に掲示して、さらに広く意見を求めた。

 そうして集まった課題を、私が得意のKJ法でまとめた。それが、図解「M高校 現状の課題」である。

 ここにはまだ、育てたい生徒像、あるべき学校像は見えていないが、私たちが取り組むべき問題と、日々の努力の意味が、明確になっている。こうして先生方の声や実践を整理し、意味づけていけば、学校の進むべき方向性は明らかになってくるのではないか。この図解化作業を通じてそう気づいた。

 今年の3月、75名の生徒が卒業を迎えたが、大学33人、専門学校25人、就職など9人と、9割の生徒が希望の進路に進んだ。一人ひとりの健闘の証である。残った4年卒予定者も、入学時とは見違えるほどの自信に満ちた表情で、日々学校生活を送っている。

 この学校で、生徒たちは確かに変わり、自立していく。それは、先生方の日々の努力の賜物だ。ならば、その取り組みが確かに引き継がれていく学校の基盤を作ること。それが私のM高校で果たすべき仕事だと思う。

2010年8月

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