教育エジソン
各地の先生方とつながる
M高校の独自科目「コーピング」は、人間関係スキルのワークシートが出版され、さらに学習スキルも含めて教育関係の新聞・雑誌に取り上げられて、全国から問い合わせが増えた。
先日は、岩手県の定時制通信制高校の教員が集まる研修会に講師として呼ばれ、雪の盛岡で先生方と語り合った。不登校生徒の人間関係や学習の問題、定時制高校の抱えている課題は、共通のものが多いと実感させられた。呼んでくれた県立T高校の校長に、M高校の実践を知ったきっかけを尋ねると、札幌のW先生の発表を聞いたからだという。
札幌の公立O高校の養護教諭W先生は、心とからだのさまざまな問題を抱えた定時制の生徒たちに、「いのちの学習」と名づけて、心身の健康の授業に取り組んできた。一昨年の来訪時には、リレーションタイムを参考に、ストレス対処法や人間関係スキルの学習を取り入れたいと、強い思いを伝えてくれた。まもなく本が出たので、ご連絡したら、すぐ活用しますとのことだった。その後、理解者、共同実践者を得て、5回プログラムを実施したと、詳細な実施資料を送ってくれた。それを見ると、導入で気負わずできるグループワークや、毎回の最後にちょこっとリラックス法をやるなど、工夫を凝らして実践しているのがわかる。とてもうれしい報告で、O高校とはつき合いが続きそうだ。
また、本を読んで来校された鳥取県立R高校のO先生(男性)にも、リレーションの授業を導入したいという本気の熱意を感じた。総合学習の時間を使って取り組みたいとのお話だったので、2人で相談して5回のプログラムを決め、そのワークシートのパソコンデータも差し上げた。本をコピーするより、その方がアレンジしやすいからである。数ヶ月たって、「実践しました」と報告をいただいた。養護の先生とチームを組んで実践し、その先生がまとめた学年便りに、授業の様子が書かれていた。生徒の感想を読むと、人間関係の具体的方法が学べてよかったと、肯定的に受け止めている生徒が少なくない。
群馬県立S高校のH先生は、本校の授業公開の日にふらっと現れた。ちょうどコーピングの授業がある日だったので、いっしょに巻き込んで授業に参加してもらった。その後、本が出たのでご案内をお送りしたら、すぐ買って実践しました、というメールをくれた。珍しい男性の家庭科教諭で、選択科目「発達と保育」の中で、子どもと関わるスキルとして、「認知」の学習を実施したという。1年後の授業公開日に、またふらっと現れて、「内向的な女子の多いクラスなので、内向きな考え方の傾向が強く、認知を広げる学習は意義が大きい」と話してくれた。口ひげとあごひげを蓄えた先生で、彼が女子クラスで家庭科を教えている様子は、想像するだけで楽しい。
リレーションほどではないが、メソッドタイムの学習スキルについても、関心は寄せられている。神奈川県立K高校は、クリエイティブスクールという新しいタイプの全日制高校だが、基礎学力に問題のある生徒たちを支援する手立てを求めて本校を訪れた。理解力を高めるメソッドのワーク「箇条書きトレーニング」をお教えしたところ、後日、同じ原理で作られたオリジナル教材が送られてきた。
K高校以外はみな、ここ数年のうちに夜間定時制の再編によって生まれた新しいタイプの定時制高校である。それぞれ地域の教育課題に応じて役所と識者が立案した基本計画に基づくが、生身の生徒と向き合い、教育の中身を作っていくのは、現場の教員である。不登校だった生徒たちに人間関係面、学習面の力を育てたい。そう願う先生方の思いをひしひしと感じる。と同時に、全国にそうした思いを持つ先生方が多くいることは、私を勇気づける。
コーピングというものを一つのきっかけにして、そうした先生方のネットワークを作れるといい。そんな思いが、ふくらみ始めた。
2011年1月