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  • 執筆者の写真教育エジソン

次なる場を求めて


 都立高校の異動要綱では、同じ学校にいられるのは6年までである。T高校全日制に来て6年。4年目から担任した学年がいよいよ3年となり、私も彼らとともにT高校を卒業すべき時期がやってきた。

 新採当初から、3校18年、定時制ばかりだったので、初めて全日制の教壇に立つ時には、不安もあった。しかし、グループ学習を多用する私の授業も、いつしか生徒に定着した。心理学を応用した授業をと志して実践してきた中で、培ったノウハウもある。次の異動先では、この蓄積を活かしたいと、漠然と考え始めたころ、興味深い話を聞いた。

 ここ十数年の間、都立高校改革の名の下に、職業高校と定時制を中心に、統廃合が進み、装いを変えた新設校が次々と開校してきた。その一つ、2007年度の4月から開校する「○○地区チャレンジスクール」は、臨床心理学を応用したプログラムで、生徒たちにコーピング(対処法)を学ばせる授業を設けるという。

 それを広報するための教員研修会が開かれ、「ピアサポート」仲間の養護教諭T先生が、受講してきた。その資料を見ると、要するに、学校ぐるみ年間通して、「ピアサポート」の授業をやるようなものである。「こんな高校があるのか!」と、新鮮な驚きだった。

 プログラムは、早稲田の人間科学学術院の教授たちとの共同開発だという。また、人間関係対処の授業だけでなく、教科の基礎にある学習スキルを教える時間も設けるという。それは、まさに、私がもっとも関心の深い学習心理学の分野である。

 「チャレンジスクール」というのは、新しいタイプの都立高校で、中学で不登校や全日制高校で不適応の生徒が、やる気を出して再チャレンジできる学校を意味する。午前、午後、夜間という三部制の定時制高校である。

 地域に根ざした定時制を廃止し、それを「発展的」の名の下、効率優先で統合することには、長年定時制にいた者として異論がある。また、やる気のない子の吹きだまりのような学校は、実は好きではない。しかし、この「○○地区チャレンジ」は、私の心を捉えた。

 夏休みの終わりに、電車を乗り換えて、行ってみることにした。現在はまだ都立N商業高校であり、そこに、開設準備室があるという。初めは、通勤ルートを確認するつもりだったが、行ったら、パンフレットくらいもらおうと、中学生の親のような顔をして、受付に言ったら、2階の開設準備室に電話を入れて、どうぞあがって下さいと言う。それならと、覚悟を決めて身分を名乗ったところ、開設準備の校長が、応対してくれた。

 気さくに話せる感じの校長で、熱意を持って開設準備に取組んでいる様子が伺えた。人間関係や学習スキルを学ぶ授業という発想は、教育委員会から下りてきた方針かと訊くと、そうではなく、開設準備の教員同士、議論する中から生まれたという。それを聞いて、私の腹はほぼ決まった。そういう人たちとなら、いっしょに仕事をしたい。新しい学校づくりに、自分の力を生かしてみたい。そう思った。

 しかし、我が家では、私の父の介護問題で、2年前から両親と同居している。妻に異動の話をすると、夜の勤務もありうる学校だということで、妻は反対した。が、私が自分のやりがいを話す中で、最後は納得してくれた。

 都立高校では公募制人事があり、進学重点校や新設校では、志願した教員が学校の面接を受けて、優先的に異動できる。

 公募の面接で、「よく応募してきてくれました」と、校長はくつろいで笑った。

2007年6月

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