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  • 執筆者の写真教育エジソン

チャレンジスクールM高校のスタート


 新たな勤務先は、今年開校の昼夜間定時制高校である。自ら希望した異動で、新しい学校づくりに参加する初めての体験となる。

 職員は、4月1日からフル出勤し、毎日、研修会で、新しい学校の方針やしくみから、新しい科目の内容も学ぶ。そして、新入生を迎える準備などの実務もこなしていく。

 開設準備の教員は、管理職含めて6人。そこに、私たち29人の新メンバーが加わって、35人の教員集団がスタートした。

 生徒募集の方針は、「不登校経験や中退経験があっても、きちんと学びたいという意欲のある生徒」。中学の調査書は見ず、通常の学力検査も行なわない。作文と面接で、基礎学力と意欲を見る。ただし、遊んで暮せる高校を求める生徒や非行傾向のある生徒に来られては困るので、夜間部まで制服着用を義務づけるなど生活指導の厳しさを強調し、非社交的、内向的でも、まじめな生徒に向いている学校というイメージを打ち出した。

 その結果、どうしても精神面の脆さを抱えた生徒が多く集まることとなった。

 3月下旬、都のカウンセラー数人が応援に来て、入学予定者全員に面接し、不登校経験などの聞き取り調査を行なった。

 それによれば、8割以上の生徒が不登校経験を持っている。精神科に通院し、服薬している生徒も少なからずおり、発達障害と診断されている生徒もいる。

 研修会でそんな報告がされると、「そんなに病気の子ばかり集めて、大丈夫なんですか」という率直な疑問の声も出された。

 私のような公募の応募者は3分の1で、残りは、たまたま本校に異動して来た先生方である。学校のこれからについて、不安は大きい。しかし、ともに仕事をやるうちに、誰もが、この学校の基本設計図と、生徒の現状を受け入れ、新しい学校づくりに前向きに取り組む人々であることが実感できるようになった。

 それは後の話だが、そんなふうに教員集団もまだ無我夢中のうちに、稔ヶ丘第1期生を迎える入学式の日はやってきたのである。

 対人的不安を持つ生徒への配慮から、間をあけて配置されたイスに、200名余の新入生が並ぶ。1年次は、1クラス15名定員の編成で、Ⅰ部(午前)、Ⅱ部(午後)は各六クラス、Ⅲ部(夜間)は2クラスある。

 私は、早めに義務を果たそうと、今年は夜間勤務を希望したところ、二部の担任となった。私の担任するⅡ部1年5組は、男子6人、女子8人の14人である。その中には、大人数の体育館が苦手で、式の最後までいられず、中座した女子生徒がいた。式後のHRのあと、母親の干渉に腹を立て、最初にけちがついたから、明日から来ない、とごねる男子生徒もいた。それらに個別に対応しつつ、予定をこなし、入学式の日は過ぎていった。

 翌週明けから、5日間のオリエンテーション。緊張した面持ちで教室に坐っている生徒たち。しかし、中には、早々に意気投合して元気におしゃべりをし、その輪を周りに広げようとしてくれる明るい女子2人もいる。

 オリエンテーション期間、決められた予定のほかに、私は、毎日の最後に、親睦を図るゲームタイムを実施した。しりとりゲーム、名前あてクイズ、前の人の名前をつなげて言っていく「隣の隣の自己紹介」、そして、最終日に、1人ずつ前に出ての自己紹介スピーチ。

 欠席した2人を除いて、全員が黒板の前に立ってきちんとあいさつし、自己紹介の話ができた。国語の授業やHRで長年スピーチをやらせてきたが、照れてだらしない態度になったり、心を開かないまま形だけで終らせる生徒が必ずいる。しかし、ここでは、一人残らずきちんとした態度の中に、自分の心をオープンにし、これからよろしくという思いが伝わるスピーチができた。

 M高校に来る生徒たちはみな、それぞれに課題を抱え、不安を抱きながらも、この学校での再出発に賭けている。その意欲をひしひしと感じるスタートであった。

2007年10月


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