イメージ体験で「文学入門」の授業
「文学入門」という、私が定時制で育んできた定番単元がある。文学を読む姿勢を体験的に理解してもらうための学習である。
まず、生徒は「ことばスケッチ」として、目に見えるものを見たままことばで書く。その際に、「気持ちを書かない」。次の時間に、「ことばスケッチ」作品をいくつか匿名でプリントしたものをみんなで読んでみる。気持ちを書いてないのに、「何だか、書いた人の思いが伝わってくるよね」というところから、紙背を読む文学の原理へと入っていく――。やがて、文章に込められた思いを読み取るには、イメージすることが重要だと、短歌や俳句を実例として、その情景をイメージして読み取る作業に入る。互いのイメージをグループで交流して理解を深め、最後にイメージと感想をまとめた鑑賞文を書いて、単元の成果とする。
定時制時代から改良を重ねながらいろいろな学年に試行してきたが、今年は、1年生に実施する機会を得て、初めて、イメージ誘導を使う方法を試してみた。
まず、「ことばスケッチ」を「イメージスケッチ」に変えた。好きな風景を心に思い浮かべて、それを描写する。その方が、あとで短歌・俳句を読んでイメージを書くという作業へも自然につながると考えたからである。そうして、「好きな風景」をありありと見てもらうために、イメージ誘導を行なった。
その内容と意義を十分話した上で、「強制ではないから、やりたくない人は聞き流していていいんだよ」と言って始める。「目は閉じても、開けていてもいいよ」と言い、ゆったりした呼吸を指示する。最初は、エレベーターで階数表示を見ながら降りるイメージ。降り切ったら、自転車に乗り、スーッと気持ちよく走っていく。田園や海岸の風景が次々と広がる。最後に、自分の好きな風景が見えてきたら、そこで自転車を降りる――。
大半の生徒は、自然に目を閉じ、リラックスしている。書かれたイメージは、誘導の流れから、海など自然の風景が多いが、家庭の1コマや中学時代の風景を書く生徒もいた。その内容は豊かで、教室の中で目に見えるものを描いていた「ことばスケッチ」より、はるかに魅力的な作品群になった。そして、イメージすることが読解へとつながっていくプロセスを、生徒たちはよく理解してくれたようである。
単元終了後に、研究のために詳細なアンケートを行なったが、イメージを描いて文学を読む楽しさがわかった、今後もイメージすることを授業に取り入れてほしい、という意見が多かった。「催眠術」めいたイメージ誘導も、生徒には肯定的に受け入れられている。
生徒たちは黙って下を向き、こちらは一方的にしゃべっているだけのようだが、一人一人は深い内面体験をし、私はそれを推し量りながら、ことばを選んでいく。両者の関係には、深い意味で、授業の原点がある気がする。
2003.7.