ヴォイストレーニングの楽しさ
前にも書いたように、全日制に赴任してから、毎朝の発音発声練習を日課にしている。20分くらいできるとよいが、時間のないときには、5分間やるだけも、声の通り方は全然違ってくる。
定時制でもときどきやっていたことだが、全日制の生徒から、「先生の声は小さくて聞こえない」と言われ、本腰を入れて取り組み始めた。初めは、以前と同様、外郎売のせりふなど、発音練習中心にやっていたが、教室での声の通りはなかなか改善しない。
あるとき、カラオケの練習を兼ねて歌を歌うことを思いついた。その手の本をいくつか読んで、発声練習を工夫した。
自己暗示やイメージによるリラクセイションはお手のものだから、全身と喉を徹底的にリラックスさせて、無駄な力が入らないようにして、腹から息を吐く。そのまま少しずつアーと発声していくと、腹からの声が出る。無理せず、力を抜いては息を吐き、少しずつ声を出して、というプロセスをくり返していくと、腹声が楽に出せるようになってくる。
それでも、他の母音を発音すると、また喉に力が入るので、腹声のアを出してから、それをエにしたり、オにしたりして、リラックスしたまま他の母音も発音できるようにしていく。声が本当に腹から出ているときは、へその下に当てた手にも、びんびんと響きが伝わる。
そうした腹声が出てきたら、それを維持して、好きな曲のイントロを歌ってみる。いっさいの無駄な力を抜いてのびのび歌うと、自然に音程に乗れていく。カラオケの伴奏もないから、引っぱりたいところは自由にひっぱって、のびのび歌うと、実に気持ちがいい。やはり、音痴は不要な緊張から来るのだと、つくづく実感する。音痴コンプレックスを直すには、とにかくリラックスして楽しく歌う経験を積み重ねればいいだけだ。その環境を整えることこそ、指導者の責任ではないかと、中学時代の傷を思い出しては、痛切に思う。
カラオケを歌っていると、高い音で苦しくなる曲がある。そこで、高音を出す訓練をしてみる。心身のリラックスを深めながら声を次第に高くしたり、低くしたりしてみると、喉の天井が上がったり下がったりして喉の長さが変わり、声の高さを調節しているようである。それが分かれば、意識してその近辺をリラックスさせ、喉の天井を上げていく。これは、声を出さなくても練習ができる。それから声にしていく。これによって、少しずつだが高音域が楽に出せるようになってきた。
そんな訓練を毎朝続けるうちに、授業での声も通るようになり、カラオケの楽しみも倍増した。まさに一石二鳥である。
これらの練習はすべて、選択科目用の空き教室を使ってやっている。防音設備などないから、生徒からも同僚からも、「先生、こないだ歌ってたね」などと言われるが、恥じても仕方がない。もっと聞かせてやれくらいの図々しさがなければ、能力は身につかない。
2001.12.