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  • 執筆者の写真教育エジソン

運転のイメージトレーニング

更新日:2020年9月27日


 40過ぎて運転免許を取るのは、ふつう、苦労すると言われる。私自身も、大幅な教習時間オーバーは覚悟の上だった。

 しかし、考えてみれば、私は学習心理学を専門とする研究者の端くれで、イメージ・トレーニングの実践家ではないか。イメージを活用すれば、運転技能の修得は、より容易になるはずだ。

 車の運転では、周囲の交通状況をすばやく認知し、判断して、適切な操作をしなければならない。しかし、他の車や歩行者との関係は刻々と変わる。その中でいくつもの認知行動を並行・連続してやらねばならない状況は、初心者には情報処理の負荷が大き過ぎる。頭ではわかっていても、いざその場になると、焦ってしまって、何かがおろそかになる。

 私は、走行コースをイメージの中でたどりながら、要所に来ると、ゆっくり時間をかけて注意ポイントを確かめ、必要な操作をする、という手順を心の中でくり返した。

 すると、確かに焦りはなくなる。前にもくり返しやったじゃないか、大丈夫、という気がして、余裕を持って判断し、操作できる。

 とはいえ、実際には、連日の教習スケジュールをこなすことに追われて、そうそう深いイメージが体験できたわけではない。

 それでも、リラックス効果は抜群だった。教習中はとかく、ハンドルを持つ手に力が入りすぎて、手に汗握るとか、肩が凝るという話をよく聞く。初めは私も、力を抜いてと指摘を受けたが、「ウデガオモイ」と唱えれば、腕と肩はだらーんと重くなる。握っている掌を開けば、腕がハンドルからずり落ちるほどだ。やがて条件反射で、ハンドルを握ると、心も体も自然とリラックスする感覚になった。

 こうした方法論を活用して、規定時間内で教習を終えてやろう。初めはそう目標を立てたが、実際に仮免に落ちて時間オーバーを重ねてみると、1時間ごとにやればやるほど操作に慣れ、楽に運転できるようになるのが実感できた。やはり学習の基本は反復練習だから、時間数にこだわるよりも、自分の納得いくまで練習をくり返す方がよい。

 そう悟って取り組んだら、仮免後の第2段階はむしろトントン拍子に進み、正味二カ月足らずで、免許が取れてしまった。

 ハンドルを握っていて、当初予想したような恐怖感はほとんどない。それどころか運転すること自体が楽しくてならず、暇さえあれば車を転がしている。

 見通しのいい道路で、風の中を軽快に走る。ふと気づくと、とても不思議な気分。自分は一生、車の運転などしない。つい最近まで、そう信じていたのに……。だが、自分で作り上げていた頑なな心の壁を乗り越えると、確かに、思いもかけない新たな地平が開けた。私はこのことを、ずっと忘れないようにしよう。

 むろん、今回の免許取得で、車社会への疑問が消えたわけではない。安全運転を実践する中で、考えつづけたいと思っている。

2001.3.

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