カットイメージ入門の授業
小説の授業で、読書習慣の乏しい生徒もありありとイメージを浮かべて読む楽しみを知り、同時に、小説好きな生徒もより楽しく読みを深めていける学習方法はないか。それを長年考え続けて、実践の中から熟成したアイデアが、「カットイメージ読解法」である。
小説の内容を読みながら、浮かんでくるシーンのイメージを、例えばマンガのコマのように、カットで分けていくとどうなるか。そう考えながら、本文を区切る。これが第1段階で、好きなだけ細かくイメージして分ける。次の第2段階では、ストーリーの概要がわかるような数枚の画を選ぶとしたらどうなるかと考え、より大きな区切りを見つけていく。
筆者の小説の授業では、このカットイメージ読解法の手法を使っていくため、一年国語総合の最初の小説単元では、「カットイメージ入門」というスポット授業を実施する。昔話『桃太郎』の紙芝居を最初の2枚だけ見せて、あとは文字で書かれた物語を配り、紙芝居の続きをイメージしながら本文を区切らせる。
その枚数を聞くと、人によってばらつきがある。そして、実際の紙芝居を順に並べ、各自のイメージのしかたとどこが同じでどこが違うかを話し合わせていく。
次に第二段階でそれらをより少ない枚数にまとめる。桃太郎の話では、3枚の画でイメージさせると、大方の意見は、①桃から生まれた桃太郎 ②犬猿キジをお供に出かける ③鬼退治 という画にまとまる。まとめる過程で、物語の全体構成が見えてくる。
そして、最後に、「この話をもっともよく表わす1枚の画はどれか」と問う。選んだ1枚は、その物語のどこが重要と感じるかという直観的選択であり、その人なりの「テーマ理解」を示している。そのことを実感してもらうために、桃太郎の3枚にまつわるテーマ解釈を私なりにステレオタイプにして示す。
①桃から生まれた桃太郎→主人公の神秘性がテーマ。天からの使者が民を救う物語。
②犬猿キジ→個性を活かし、力を合わせて解決する。チームワークの物語。
③鬼退治→正義は勝つ。勧善懲悪の話。
これでカットイメージ読解法の基本的作業が理解でき、本格的な小説教材を読み解いていく準備ができる。
カットイメージ分けの作業を教えると、生徒たちはシーンとして、一心に読み、線を引いている。その姿を見ていて、ときとして私は涙が出そうになる。静かだが、一人ひとりの脳裏には、確かにイメージが展開し、それぞれの読みが進んでいる。それがひしひしと伝わって、感極まってくるのだ。
入門授業の最後のおまけは、3枚のカットの深層心理テストふう解釈。これがまた大爆笑で、授業の印象は鮮烈に残り、次回への期待感は、いやが上にも高まる。そこからが私の授業のほんとうの勝負である。